映画を10分程度に短く編集した動画である「ファスト映画(ファストシネマ)」。2021年夏頃に日本でも報道によって問題視され始め、それ以降は続々と逮捕者が出ています。2022年も同様です。2月15日には、宮城県警と塩釜警察署はYouTubeで映画を短時間に編集した「ファスト映画」を無断でアップロードしていた男性1人を著作権法違反の疑いで新たに逮捕しました。
FULLMUVIVERSE オリジナル・ニュース(テクニック)
ファスト映画を投稿した人の呆れた主張
ファスト映画は、映画自体を丸ごとそのまま無編集でアップロードしていることはありません。部分的に動画や静止画を使ってその投稿者なりに編集し、独自のテキストや音声なども混ぜ合わせながら、主にストーリーのあらすじがわかるように構成されています。場合によっては解説をしているものもあります。
逮捕者が出ていることからもわかるようにファスト映画は違法性が極めて高いです。著作権を侵害しています。
「引用である」と反論する人もいますが、引用には条件があり、一般的によく言われている条件は「主従関係が明確であること(明確性)」「引用部分が他とはっきりと区別されていること(明瞭区別性)」「引用をする必要性があること(必要性)」「出典元が明記されていること(出典)」「改変しないこと」などです。引用元の企業名などをちょこっと書いておけばいいというものではありません。これらについてはあまり知られていないのか、「引用だ」と宣言すれば何でも引用になると誤解している人も多いのも、こうしたファスト映画が氾濫してしまった理由のひとつと考えられます。
しかし、今回の2022年2月に逮捕されたファスト映画投稿者は当初からメディアのインタビューを受けて堂々と自分の正当性を主張するなど、かなり大胆で反省の欠けた行動をとっており、界隈では話題になっていました。
メディアでは以下のように報じられています。
「20年4月からファスト映画の制作を始め、これまでに50本ほど投稿。毎月10万円、計150万円の収入を得た」などと話した他、YouTubeの「歌ってみた」動画などで音楽利用が包括的に認められている例やYouTubeが運用している「コンテンツID」の仕組みを挙げ、自身の行為を正当化する発言を繰り返したという。
引用:ファスト映画で逮捕の男性、メディアのインタビューで自己正当化する発言を繰り返していた 家宅捜査まで動画に;ITmedia
さらにこの逮捕された男性は、2021年12月に家宅捜査を受けたのですが、その状況をわざわざYouTubeのメンバー限定動画として公開し、視聴するために1カ月あたり500円の会員登録をするように呼びかけるなど、今回の騒動を自分の儲けるチャンスとして利用するなど、その行動には驚きです。自身のYouTubeチャンネルでは幾度も自分の持論を展開し、メディアを批判したり、論点を勝手にまとめるなど、やりたい放題でした。注目を集めるのが嬉しかったかのようにも見受けられます。マスコミはこの投稿者が逮捕される可能性を見越したうえで取材を申し込んでいたものと思われますが(マスメディアがよく行う手口)、本人は自分の犯罪性には気づいていなかったのか…こればかりはわかりません。
映画の考察動画を合法的に作る方法
一方でこのファスト映画騒動でとばっちりを受けてしまったのがYouTube上で映画の考察動画や感想動画をあげていた人たちです。今回の逮捕の連発に警戒して、自分がアップロードした考察動画や感想動画を削除して引っ込めた人も少なくありません。多くの人は何が違法で何が違法ではないのか、そのわかりやすい線引きを求めています。
この線引きを明確に提示することはできません。法的な議論は裁判や専門家の話し合いで決まっていくものであり、誰かが断言できるものではなく、弁護士であっても見解を述べるだけです。
しかし、合法的な範囲に収まりやすい動画と思われるものを提案することは可能です。
そこで以下に整理しておきます。
①映画の動画は使わない
まずここが何よりも大事ですが、映画本編の動画を切り取って使用するのはやめましょう。予告動画でもダメです。これらは著作権で完全に保護されており、その動画を加工して編集して動画に利用している時点で法律に違反する可能性は極めて高いです。
もしどうしても予告動画を利用して紹介したい場合は、日本の配給会社に連絡して許可をもらう必要があります。許可してくれるかはわかりませんが、会社によっては期限付きで認めてくれるケースもあり得ます。
②映画の音声は使わない
動画を利用するのはダメなら、音声はどうなのでしょうか。音声も著作権で保護されています。映画のセリフ、効果音、BGMなどです。これらを無断で自分の動画内で利用すると法律に違反する可能性は極めて高いです。音声を少し加工すればいいのではないかと思っていてもそれもアウトです。加工する行為自体が違法になります。
同様にサウンドトラックの利用もダメなので注意しましょう。
③映画の画像を使う場合は…
動画や音声がダメなら、画像はどうなのでしょうか。映画のシーンを映したスクリーンショット(場面カット)やポスター画像、キャラクター画像の切り抜きなどです。これなら部分的に使うだけなら引用になるでしょうか。
こうした画像を利用している動画はたくさんあるので大丈夫そうに思えますが、注意が必要です。そもそも動画は投稿者が編集加工してひとつの動画のファイルにします。そのため画像データも加工することになってしまいます。引用になるには「改変しないこと」が条件になるので、動画内での画像の利用は引用に当てはまらず違法になってしまう可能性があります。ブログなどの文章ベースのメディアであれば、改変をせずに引用部分が他とはっきりと区別されている状態を保てますが、動画ではそれは厳しいです。
もし画像を利用したいときは、やはり日本の配給会社に連絡して許可をもらう必要があります。場合によっては許可してくれることもあるでしょう。
④他の手段
画像も使えないならどうやってその映画であることを視聴者にわかってもらえるのでしょうか。
ひとつの代替手段として、自分でイラストを描くという方法があります。画像をそのまま使うよりは良いでしょうし、非難されることも少ないはずです。ただし、二次創作のイラストということになってしまうので、著作権と無縁というわけではありません。あくまで二次創作のグレーゾーンの中で許容されるものだということを覚えておきましょう。
また、動画に自分自身が出演して、映画のポスターやDVDのパッケージなどを手で持ったり、壁に貼ったりして紹介するというのは、著作権に抵触しづらいので安全性は比較的高い方法となります。ただし、映画のパンフレットなどの中身を視聴者がわかるように映像で映し出すというのは法律に触れる可能性が発生するのでやめましょう。
比較的法律に違反しないタイプの動画として流行っているのがリアクション動画です。映画を観ている自分の表情や反応を映像で映してアップロードするものです。この際も映画の動画や音声が入り込まないようにしないといけません。
なお、海外と日本では法律が違うことにも注意してください。海外ではフェアユースというものがあり、画像の利用などが部分的に認められていることがあります。海外の投稿者がやっていることを日本でマネすると海外では良くても日本では違法になってしまうかもしれません。
⑤ネタバレは?
ネタバレに言及するのは違法なのでしょうか。ネタバレそのものが違法になったりはしません。しかし、ネタバレをする過程で著作権などに抵触するのはマズいです(動画や画像を使ってしまうなど)。また、完全にネタバレだけを目的にし、映画会社のビジネスを明確に妨害するだけになっているのであればそれも問題となるでしょう。
⑥他の注意点
映画の感動や考察を語っているときは基本的に自由ですが、何でもいいというわけではありません。差別に該当するような内容は利用ルールで禁止されていることが多いです。YouTubeのコミュニティガイドラインには以下のように書かれています。
YouTube はヘイトスピーチを容認しません。次のいずれかの特性に基づいて個人や集団に対する暴力や差別を助長するコンテンツは削除されます。
年齢
カースト
障がい
民族
性同一性や性表現
国籍
人種
在留資格
宗教
性別 / ジェンダー
性的指向
深刻な暴力的出来事の被害者とその親族
従軍経験
こうしたことに気を付けることで、YouTube上で映画の考察動画や感想動画をあげてみんなで楽しむことができます。映画の考察動画や感想動画を作る際はぜひ上記のことを意識して行動してください。