小林勇貴監督の『ヘドローバ』の撮影で児童虐待か? 子役が何度も殴られ嘔吐する映像に非難殺到

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日本の映画界では、パワーハラスメントや性的暴力など多くの問題が指摘されており、その業界体質に批判が常に巻き起こっていますが、2022年4月は児童虐待の疑惑も持ち上がりました。それが小林勇貴監督が2017年に公開した『ヘドローバ』という映画の撮影現場での出来事です。この撮影現場をとらえた映像が話題となり、批判殺到しています。

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『ヘドローバ』児童虐待疑惑

一般的に映画の撮影現場は関係者しか知らない世界です。しかし、今回はその撮影現場の映像が一般に公開されていたことで問題が発覚しました。

物議を醸しているのは、制作・配給元の「VICE」が2017年に公開した『ヘドローバ』のメイキング映像。VICE Japanが発足した「ケータイで撮る」映画プロジェクトの第1弾です。基本的に普通に見られる映像として公開されています。

映画『ヘドローバ』の作中には子どもが暴行されるシーンがあるのですが、メイキングによればこのシーンは演技(暴行されたふり)ではなく実際に本当に子どもに暴行を加えられており、メイキングでは暴行場面がそのまま映されています。大人の俳優が子役の少年の髪を掴み、高圧的な雰囲気の中で何度も平手打ちを加え、その回数は10回以上ビンタを浴びせているようにメイキングだけでは確認できます。その暴行撮影シーンの後は、涙に顔を濡らし、カット後にも嗚咽が止まらない子役の少年が映り、「よく頑張った」と周囲から声を掛けられる中、よほどキツかったのか嘔吐してしまいます。

このシーンに関してわざわざ公開しているくらいであり、製作者はそんなに問題がある行為だとは思っていないことが推察されます。

プロデューサーの西村喜廣氏は以下のようにコメント。

今の喧嘩のやつ(シーン)は、マジでやるってことは結構ありますね。で、若い子なんで、それに対して少しはリアルさを出さないと、あの表情は出なかったんじゃないかなと思います。だから、別にそこまで危険なことはやってないと思うんで、それは大丈夫だと思うんだけど。

監督の小林勇貴氏は以下のようにコメント。

恐ろしいものが撮れてしまいましたが、そうですね、でもすごい良かったです。児童虐待、撮りました。

暴行していた一ノ瀬ワタル氏は以下のようにコメント。

泣かしてやろうとは思ってたんすけどね、ちょっと罪悪感が。ハハハ(中略)映画界にあんなシーンはないと思うんすけどね。あんな本気で殴ってるシーンは。ハハハ

基本的に制作者は清々しい笑顔を見せました。

監督は評価も高い小林勇貴

映画『ヘドローバ』は、不良しか住んでいない危険な団地を舞台にした作品。その不良たちを束ねるボスは、ひとりの老婆であり、カルトな宗教団体を運営し、容赦なく犯罪に手を染め、金を稼ぐ老婆とそのファミリーたちの姿がバイオレンスに描かれます。強盗、詐欺、自殺、ギャングとの抗争など、危険な日常が当たり前となっているその団地をある日モンスターが襲い、状況は混沌としていく…というのが大筋のストーリーです。

『ヘドローバ』の監督である小林勇貴氏は2017年に間宮祥太朗の主演作『全員死刑』にて商業作品デビュー。その前は『孤高の遠吠』(2015年)などを手がけ、そのリアルなバイオレンスでも注目を集めている監督でした。『ホームルーム』(2020年)、『酒癖50』(2021年)などのテレビドラマも手がけています。著書「実録・不良映画術」では、静岡・富士宮市出身の小林勇貴氏の自叙伝として、閉塞した状況の中で映画を観て育った子供時代、鬱屈した気持ちを抱えながら不良狩りに明け暮れた青春時代などが語られています。

プロデューサーの西村喜廣氏は、特殊メイクアップアーティストとしても活躍し、2008年には劇場映画初監督作品『東京残酷警察』を発表。2015年の実写映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』でも特殊造形プロデューサーとして関わっています。『冷たい熱帯魚』『シン・ゴジラ』で特殊造型も担当しました。

今回の『ヘドローバ』でのメイキング映像での児童虐待疑惑が注目されたことで、SNSでも批判意見が続出。暴力性を問題視し、大人の責任を問う声が上がっています。かなりショッキングな映像ということもあって、そのあまりの残酷さに気分が悪くなった人も見られました。

批判されている側は現時点では明確な公式の反応は見せていません。制作者側に近い人間からは、ネット上の批判を私刑(個人や集団が法律によらずに加える制裁)だと咎める意見も一部で見られます。しかし、後述するように児童虐待を疑って問題視する行動は日本の法律で認められた適切な手順にも関係してくることなので、一概に短絡的な行為とは言えません。

児童虐待の通告は国民の義務

18歳未満の子どもへの児童虐待は、30年連続で増え続け、2020年度は過去最多の20万5029件になったと厚生労働省は公表しています。20万件を超えたのは初めてで、前年度より5.8%(1万1249件)多くなっており、児童虐待が社会に蔓延している実態が明らかになっています。

児童虐待については第3者が児童相談所に通告することができます。児童虐待防止法改正法により、通告の対象が「児童虐待を受けた児童」から「児童虐待を受けたと思われる児童」に拡大されたことで、これにより虐待の事実が必ずしも明らかでなくても、子どもの福祉に関わる専門家の知見によって児童虐待が疑われる場合はもちろんのこと、一般の人の目から見れば主観的に児童虐待があったと思うであろうという場合であれば、通告義務が生じることになりました。また、児童福祉法第25条の規定に基づき、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合、全ての国民に通告する義務が定められています。児童虐待を無視することは推奨されていないのです。

この通告については、児童虐待防止法の趣旨に基づくものであれば、それが結果として虐待事実のない誤りであったとしても、そのことによって刑事上、民事上の責任を問われることは基本的には想定されないと厚生労働省は説明しています。

なのでもし児童虐待の疑いがある事案を確認した場合は、誰でも児童相談所に通告することが可能です。証拠のようなものは必ずしも必須ではありませんが、何か情報があるのであればそれも合わせて通告できます。虐待かどうかの判断は児童相談所が行いますので、通告者が虐待を確認できる証拠などを集めて証明することはしなくていいです。また、誰が通告したかという秘密は守れられるので報復などを受ける心配はありません。

つまり、ネット上で児童虐待が疑える事案を発見した場合でも通告は可能です。自分自身がその現場にいなければいけないということでもありませんし、被害児童の同意をとるなども必要ありません。確認作業は児童相談所で行います。

詳細については厚生労働省のウェブサイトでも説明されているので参照するといいでしょう。

以下のサイトでも通告の方法について詳細な解説が載っています。

児童虐待は支配関係を構築します。児童虐待を恒常的に受けた子どもはそれが当然であると認識し、自分が被害者であるという自覚を抱くことができなくなります。そのため、自分で警察に相談したり、保護を求めてくるのが難しいケースも珍しくありません。ゆえに第3者の通告が重要であると考えられています。

大人は子どもを児童虐待から守る義務があり、それはいかなる場所でも児童虐待が許されるわけではないことを意味しています。今できる行動をとるようにしましょう。

海外では子どもが映画撮影の現場で働く際は厳しい基準があります。安全性はもちろんのこと、子どもの人権を保護することが最優先で求められ、これらを満たさないで作られた映画は公開できないこともあります。

「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、4つの原則があります。「生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)」「子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)」「子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)」「差別の禁止(差別のないこと)」の4つです。

映画業界にも責任があることは言うまでもありませんが、日本の映画界は大丈夫なのでしょうか。


 

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