ディズニーの実写映画『リトル・マーメイド』が日本でレビュー爆撃の標的に? 一部サイトで評価が極端に低下

映画ニュース

1989年のディズニーのアニメーション映画を実写映画化した『リトル・マーメイド』が日本でも2023年6月9日に劇場公開されました。おなじみのキャラクターやミュージカル・シーンは美麗に映像化され、劇場映画らしいスケールのダイナミックな展開も盛沢山となっています。2023年6月12日の時点で、興行収入は世界での合計は4億1770万ドルとなっています。世界中のSNSを見ると、楽しそうに映画に触れている子どもたちの姿が確認でき、子どもにしっかり届いているようです。

しかし、そんな実写映画『リトル・マーメイド』に暗い影が…。一部の日本の映画レビューサイトで、評価が著しく低下する現象が観察されています。一体これはなぜなのでしょうか。

FULLMUVIVERSE オリジナル・ニュース(深堀り)

一部のレビューサイト評価が極端に下がる

映画を専門に扱い、一般のレビュースコアを集約しているウェブサイトサービスが世界中には存在しています。最大「5.0」からのスコア値であったり、「100点満点」で評価するものであったり、「%」で表示されたりと、それぞれのレビューサイトごとに算出は違いますが、基本的な仕組みは似通っています。大勢のユーザーのレビュースコアをまとめてくれているので、その映画の評価がだいたいわかることになります。

実写映画『リトル・マーメイド(2023)』も他の映画と同じように劇場公開当時からこれらのレビューサイトで取り扱われました。しかし、そのスコアの結果は少々歪なものになっています。

以下は「2023年6月14日」時点における、代表的なレビューサイトのスコア値をまとめたものです。

日本のレビューサイトの『リトル・マーメイド(2023)』評価
●Yahoo!映画:2.7/5
●映画.com:3.1/5
●Filmarks:3.9/5
●KineNote:73.2
アメリカのレビューサイトの『リトル・マーメイド(2023)』評価
●RottenTomatoes(観客スコア):94%
●IMDb:7.2/10
●CinemaScore:A

アメリカのレビューサイトは軒並みに観客の評価が比較的高いですが、日本のレビューサイトは状況が違います。一部のサイトで評価が著しく低いものが確認できます。

これをもって「アメリカの観客からは評価が高く、日本の観客からは評価が低い」と断言するのは、いささか不適切でしょう。なぜなら日本のレビューサイトでも、評価がそこまで低くないものもあり、一部のサイトだけが評価が大幅に低下しているからです。普通はどのレビューサイトであっても、大勢のユーザーの評価値を集約して平均化しているので、スコア値に大きなばらつきは生じないはずです。『リトル・マーメイド(2023)』の酷評は局所的に発生しています。

原因は「レビュー爆撃」か

この「一部のサイトだけが評価が大幅に低下している」現象の原因は「レビュー爆撃」だと考えられます。レビュー爆撃というのは英語で「Review Bomb」とも言いますが、特定の人々が何らかの意図を持って特定のターゲットに対してインターネット上に否定的なレビューを大量に残し、レビューのスコアを大幅に下げてしまう行為のことを指します。

少数の者が複数アカウントを駆使して低評価レビューをつけることもありますし、多数の者が連動するように低評価レビューをつけることもあります。

それがレビュー爆撃によって評価が下がってしまったのか、それとも単に作品の評価がもともと低いだけなのか。その区別は曖昧なこともありますが、事例によってはレビュー爆撃があからさまにハッキリしている場合もあります。

例えば、今回の実写映画『リトル・マーメイド(2023)』における「Yahoo!映画」のスコアはわかりやすいです。

『リトル・マーメイド』のYahoo!映画のスコア

『リトル・マーメイド(2023)』のYahoo!映画のスコア【2023年6月14日時点】

実写映画『リトル・マーメイド(2023)』における「Yahoo!映画」のスコアは「星1」の評価が全体の46%を占め、突出しています。2位が「星5」の27%で、極端なバランスです。一般的に単に評価が低い作品は、スコア値が「星5」が最も割合が少なく、順々に「星4」「星3」「星2」「星1」とその割合が増えていくことが多いです。もしくはスコア値が正規分布するのも定番です。このように最低評価だけが異様に突出するケースではレビュー爆撃が疑われます。

そして同じ国の他のレビューサイトとは異なるスコア値のバランスになっている場合はさらに特定サイトだけがレビュー爆撃を受けた疑惑が高まります。

こうしたレビュー爆撃は日本だけではありません。実写映画『リトル・マーメイド(2023)』に関しては実はアメリカの「IMDb」も同様な現象が当初は確認されたそうですが、「当社の評価メカニズムにより、このタイトルに対する異常な投票活動が検出されました。当社の評価システムの信頼性を維持するために、代替の重み付け計算が適用されています」と表示され、何らかの対処が行われたことが示されています(出典:Deadline)。

このようにレビューサイトの中にはレビュー爆撃への対抗手段を用意しているものがあり、レビューの信頼性を損なう深刻な問題となっていることもあって、各サービスは対応を強化しています。

今回の実写映画『リトル・マーメイド(2023)』に対してレビュー爆撃の疑いが観察された日本のレビューサイトは、レビュー爆撃への対応はあまり講じていないのかもしれません。

背景にあるのは人種差別? 反ポリコレの荒らし?

レビュー爆撃はインターネットにおける「荒らし」の一種であり、主に自分が気に入らない作品に対して攻撃する目的で行われます。

実写映画『リトル・マーメイド(2023)』がレビュー爆撃の狙いにされたのは、主役に黒人の俳優がキャスティングされたことへの反発と思われます。元のアニメーション映画では白人が主人公でした。

しかし、表現において人種が変更されることはとくに珍しいことではありません。どの人種で描こうともそれはクリエイターの「表現の自由」となります。

ところが、一部の人たち、とくに保守層や極右層の者たちは、とくにこうした人種など多様性を感じられる要素が作品内にあった場合に「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」という言葉を好んで用いながら、その作品を非難することがよく起きています。有名なのが元アメリカ大統領のドナルド・トランプであり、「ポリティカル・コレクトネス」という言葉を多用しながら政治的な演説をすることが頻繁にありました。ドナルド・トランプ支持者も「ポリティカル・コレクトネス」として特定の多様性を感じられる作品などを批判することは珍しくありません。

日本にも同様の思想を持った人たちが存在することは、インターネット上を眺めていると観察できます。安易にバッシングの流れに乗っかってしまった人もいるかもしれません。

過去にも同じようにレビュー爆撃に見舞われた映画がいくつもあり、多くはそうした政治的なバッシングが背景にあったとされています。

レビュー爆撃自体は犯罪ではありませんが、そのサービスの利用における本来の在り方ではありませんので、アカウント停止などの措置をとられる可能性もあります。サービス運営側にとっては迷惑な行為です。

今後も別の映画がレビュー爆撃の攻撃の被害に遭う可能性もあります。注視していくべきでしょう。