『キングスマン』シリーズのマシュー・ヴォーン監督が描く新作の痛快スパイアクション映画として話題を集めている『ARGYLLE/アーガイル』。謎のスパイ組織の正体に迫る凄腕エージェント・アーガイルの活躍を魅力たっぷり描いたベストセラー小説「アーガイル」の作者エリー・コンウェイが、現実でとんでもない騒動に巻き込まれていく姿を、意外な展開と共にダイナミックに映像で繰り広げています。日本でも2024年3月1日に劇場公開され、多くの観客が映画館に足を運んでいます。
しかし、本作の日本の配給会社が公式ウェブサイトやSNSに掲載した「ある映画評論家のコメント」が原因で炎上することになりました。
FULLMUVIVERSE オリジナル・ニュース（深堀り）
掲載された映画評論家のコメント「オバサン」「ブ男」
その問題となった「映画宣伝の推薦コメント」。それを書いたのは、映画評論家として活動している渡辺祥子氏によるものです。内容は以下のとおり。
オバサン作家とブ男スパイのコンビを駆使、スパイ小説・映画の大国イギリスが生んだ名作スパイ物の伝統、お約束をぶっ飛ばし、我が道を行くマシュー・ヴォーンの痛快編。なんたってオバサンの愛猫が可愛い。
登場するキャラクターの一部を「オバサン」「ブ男」と表現しており、これを見た一部の映画ファンから容姿差別として問題視されることになりました。
『ARGYLLE/アーガイル』はブライス・ダラス・ハワードが演じる女性作家が主人公で、ヘンリー・カヴィルやサム・ロックウェルがその女性作家の身近に立つ男性として登場します。
ブライス・ダラス・ハワードは1981年生まれで、映画監督のロン・ハワードを父に持っており、俳優として主に活動しています。近年は『ジュラシック・ワールド』で主演を飾ったことでも話題となりました。また、ドラマ『マンダロリアン』で監督を務めるなど、その才能はマルチに輝いており、今後も大きな注目を集めています。
ブライス・ダラス・ハワードはメディア「Time Magzine」にて、ハリウッドでは女優がキャスティングされるときは体のサイズにやたらと注目が集まり、痩せるように指示されることもあるという慣習について言及し、そういう業界のこれまでの流れを問題視するコメントもしています（出典：Time Magazine）。
少なくとも問題となった「映画宣伝の推薦コメント」のこの「オバサン」はブライス・ダラス・ハワードが演じている主人公を指していると思われます。ただし、映画内でその主人公が「オバサン」という言葉で表現されることはありません。
映画ジャーナリストとも肩書で説明される渡辺祥子氏は、これまでも多くの映画に宣伝コメントを寄せたり、映画紹介をしてきた経歴があり、最近も『THE BATMAN ―ザ・バットマン―』『私のちいさなお葬式』『ネクスト・ゴール・ウィンズ』など、いくつも作品でコメントが確認できます。
批判を受け、こっそりと削除
『ARGYLLE/アーガイル』に関する今回の該当の「映画宣伝の推薦コメント」は映画公式ウェブサイトや配給会社のSNSに掲載されました。「各界から絶賛の声続々！」という言葉と共に、多くの推薦コメントの中に混ざっていました。
しかし、この該当の「映画宣伝の推薦コメント」はSNSなどで批判を集め、ウェブサイトやSNSから削除されました。削除以降は、残った他の人の推薦コメントが並んでいる状況です。
2024年3月1日時点で、日本の配給会社からのオープンな説明はありません。しかし、該当のコメント掲出の取り下げを求めるべく問い合わせを送った人もいたようで、個別の返信はあったようです。
推薦コメントを選考する宣伝側にも批判
一番に批判にさらされているのは問題の推薦コメントを書いた映画評論家ですが、その推薦コメントを選考して使用することを選んだ『ARGYLLE/アーガイル』の宣伝側にも批判が寄せられています。日本で配給を担当したのは「東宝東和」でした。
一般的に、映画が公開されるときは、事前に試写会などで一部の人に映画を鑑賞してもらい、そこで推薦コメントを書いてもらうことが多いと言われています。誰の推薦コメントを使うかは宣伝を担う企業が決めることになります。
推薦コメントを参考にどの映画を見に行くかを決める人も少なくないでしょう。推薦コメントには、業界人として評論家、ライター、俳優、宣伝、芸能人、その他の専門家などがピックアップされることがよくあります。
今回の場合は、宣伝を担う担当者は、「オバサン」や「ブ男」という表現についてとくに気にしなかったのかもしれませんが、その倫理観の穴が急所となりました。
映画の宣伝はその手法や内容をめぐって、たびたび炎上しやすいです。宣伝に携わる者の常識が問われます。
